TH家・水上のせいろ
秋田県中部の仙北平野。 田沢湖のさらに奥から流れ出る玉川が南下して秋田方面に至る雄物川に合流する辺りまでが「ドンパン節」で有名な仙北郡で、先人達の努力により治水事業も完備された米所だ。
実はこの「水上のせいろ」は偶然見つけたものだった。水板倉のある「羽後長野」駅に夜中に着き、ようやく泊まれた中里温泉でのガイドマップ片隅にあった小記事(註)で始めて知った。こんな小さな小屋のことなど誰も存在すら知らず、翌日朝から半日がかりで探し当てたものだ。 同じ町内を尋ね歩いても全く知らないということは、ごく最近まではあまりにもありふれていて意識もしてない建物(小屋)であったということだろうか、はたまた希有なものということか。
「せいろ」というのは一般的には校倉造りのように板を井形に組んで積み上げて造ったものを指す。米倉のような建物は調温・調湿の必要から土蔵よりも板倉の方が適している。内部に高く積み上げられた穀物にも耐えられる丈夫な壁であるためには大変合理的な構造で、奈良正倉院の校倉造りの例を挙げるまでもなく昔から使われた工法である。
この地でもきっとそんな構造の倉もあって、名称だけが残っているとも推測されるが、ここではこの水板倉を現地での呼び方にならって「水上のせいろ」とする。
この「水上のせいろ」は 津軽の板倉 と大変似た構造のものであった。(いや、こちらが本物か?) 柱間は2尺、間口16尺、奥行22尺、壁は貫を繁に配し広幅板打付けとしていた。
なお、この板倉では床を外して冷気を導入することもなく、鯉も飼ってはいなかった。
ところで当家の主人に「せいろ」の意味を尋ねたところ「米倉のことだよ」と、「米倉」と「せいろ」は同義語であった。
註
池上せいろ
池の中に作られた穀物貯蔵用の蔵で、ネズミや火災、盗難等の予防を目的とした現存する希少な建築物であり、百年近くを経たものと推定される。


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